子力災害拠点病院のモデル BCP 及び
部評価等に関する調査及び開発

研究内容 Research

研究概要

背景・目的

平成30年の新しい原子力災害指針に基づく実効性のある原子力災害医療体制の構築をするため、ワークショップを通じて全国の原子力災害拠点病院が複合災害としての原子力災害を想定した業務継続計画BCPを策定し、合わせて原子力災害時のリスクコミュニケーションのあり方を習得する。

研究のロードマップ

各調査研究について

【調査研究1】原子力災害拠点病院における業務継続計画BCP策定のための技術的指針類の作成

厚生労働省が所掌する災害拠点病院における業務継続計画BCPにおける策定マニュアルやチェックシート、テンプレートを踏まえ、原子力災害拠点病院の特性を踏まえた技術的指針類の作成を目指した。
業務継続計画BCPの策定するための方法論として、BCP策定の世界的権威であるNPO団体Disaster Recovery Institute(DRI)が提示するモデルを採用した。DRIが提唱するBCPのモデルには緊急対応や危機広報が明確に位置付けられていることが明らかとなった。危機広報とはリスクコミュニケーションであり、BCPの中で病院内外の関係者にタイムリーに的確な情報を提供することが求められるとされている。このことから、原子力災害拠点病院のBCPにもリスクコミュニケーションの観点を盛り込むこととした。

この方向に準拠する形で平成31年度に、技術的指針類として講義資料、BCP策定マニュアル、そしてテンプレートを作成した。これらをもとに平成31年度には4回のワークショップを実施した。 令和2年度には新型コロナ感染症の拡大を受けてオンライン・ワークショップを新たに開発し実施した。原子力災害拠点病院の立場からリスク分析、業務影響分析、業務継続戦略を立案することを重視した。

【調査研究2】策定された業務継続計画BCPの充実度を評価する仕組みの作成

モデルBCPとしては以下の5項目が含まれていることが望ましい。

原子力災害拠点病院のためのモデルBCP 重要項目
  1. 公開情報(内閣府原子力防災、道府県地域防災計画、原子力事業所等)に基づく原子力災害のリスク評価、業務影響分析、業務継続戦略の検討
  2. 原子力災害時の被ばく傷病者受け入れ体制の整備、原子力災害医療チームの派遣
  3. 原子力災害時のリスクコミュニケーションのあり方
  4. 職員の安全配慮義務
  5. その他

BCPの充実度は上記5点に関する確認となる。高度被ばく医療支援センター、原子力災害医療・総合支援センター等から外部評価を受け、質の担保を図ることが望ましいと思われる。外部評価を行うものとしては、各センターまたは当研究班にて行うことは可能であった。

体裁としては、既存の災害拠点病院のBCPに新たに原子力災害の章を加える、あるいは新たに原子力災害拠点病院としてBCPを策定する、いずれでもいいと考えた。

【調査研究3】複合災害を想定した原子力災害拠点病院の業務継続計画BCP策定

2011年の東日本大震災における地震・津波・原子力事故の教訓を踏まえて原子力災害指針が策定され、原子力災害医療のあり方も規定されている。従って、BCPを策定するにあたり、各原子力災害病院は、利用しうる公開情報をもとにリスク分析を行うことが望ましいと思われた。ただ、日常業務に加えて2020年からの新型コロナ感染症対応が困難であるため、当方にてワークショップに合わせて、各道府県の地域防災計画や内閣府原子力防災の各種資料、あるいは原子力事業所の防災計画を踏まえてシナリオを作成し、グループディスカッションを実施することとした。

【調査研究4(分担研究と関連)】原子力災害時に原子力災害拠点病院が円滑に活動を行うため、地域社会や報道機関に向けたリスクコミュニケーションのガイドラインの確立

原子力災害拠点病院のためのリスクコミュニケーションのあり方は、当初確立されておらず、海外事例や先行知見、あるいは他分野におけるリスクコミュニケーションのあり方の事例を分析した。また救急医療の臨床現場で患者とのコミュニケーションのあり方の教育指導を長年取り組まれていた、岡本正弁護士(災害復興学)、福島県立医大長谷川有史先生、さらに海外の原子力災害やリスクコミュニケーションの専門家と意見交換した。
2011年東日本大震災における放射線に対する不安・恐怖により病院職員が参集困難となり、病院機能が低下した。この事実を踏まえて、病院職員への安全配慮義務に留意しつつ、病院職員に対する原子力災害のリスクコミュニケーションの重要性に配慮することとした。
分担研究ではリスクコミュニケーションとクライシスコミュニケーションを以下のように整理し、いずれも原子力災害拠点病院が複合災害での原子力災害時に機能するために必要な内容であるものとした。 米国政府におけるリスク・クライシスコミュニケーションはVincent Covelli, Peter Sandmanといった専門家が提唱する理論に準拠していることが確認された。
そして欧米の国際標準的な災害・危機時におけるリスクコミュニケーション ・クライシスコミュニケーションのあり方を分析し、本研究では、US Environmental Protection Agency. Communicating Radiation Risk. Crisis Communications for Emergency Responder(米国環境保護省 放射線リスクのコミュニケーション 緊急対応要員のためのクライシスコミュニケーション)に準拠する形でワークショップの講義・演習を開発した。

平成31年度に完成したガイドラインに準拠して、原子力災害に関連したシナリオを設定し、リスクコミュニケーションを実践する演習を実施した。

令和2年度 オンライン・ワークショップ

(1) 事前オンライン学習(動画閲覧)

  • 永田高志(九州大学) 原子力災害拠点病院のためのBCP研修 60分
  • 永田高志(九州大学) 原子力災害拠点病院に必要なリスク・クライシスコニュニケーションのあり方 40分

(2)研修当日 Zoomによるオンライン・ワークショップ(午後の例)

研修1 13:00~13:40 テンプレート説明およびグループディスカッション
「複合災害による原子力発電所事故を想定した原子力災害拠点病院の対応について」
九州大学 永田 高志
研修2 13:40~14:10 「原子力災害拠点病院のBCPと病院職員の安全配慮義務」
銀座パートナーズ法律事務所  弁護士 岡本 正 
研修3 14:20~15:00 「原子力災害拠点病院のためのリスクコミュニケーション演習」
藤田医科大学岡崎医療センター救急診療科 病院教授 有嶋 拓郎

平成31年度 ワークショップ

開会・挨拶 13:00
講義1 13:10-13:50 原子力災害拠点病院のためのBCP研修
九州大学 永田高志
講義2 13:50-14:40 原子力災害拠点病院のBCPと病院経営における安全配慮義務の視点
銀座パートナーズ法律事務所 弁護士 岡本 正
休憩 14:40-14:50
演習1 14:50-15:40 グループディスカッション
複合災害による中国電力島根原子力発電所事故を想定した原子力災害拠点病院の対応について
九州大学 永田高志、鹿児島大学 有嶋拓郎
休憩 15:40-15:50
講義3 15:50-16:10 原子力災害拠点病院に必要なリスク・クライシスコミュニケーションのあり方
九州大学 永田高志
演習2 16:10-17:00 原子力災害拠点病院のためのリスク・クライシスコミュニケーション演習
鹿児島大学 有嶋拓郎
質疑応答 17:00-17:15
閉会 17:15